名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)2139号 判決 1999年4月09日
原告
堂良子
ほか一名
被告
廣瀬篤
主文
一 被告は、原告良子に対し、金二二八一万〇四三九円及びこれに対する平成六年六月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告浩之に対し、金二二八一万〇四三九円及びこれに対する平成六年六月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余は原告両名の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告良子に対し、金四九八五万二二二〇円並びに内金四三九九万二六六六円に対する平成六年六月一二日から、内金一七五万円に対する平成一一年二月一一日から及び内金四〇〇万円に対する平成九年六月二一日からそれぞれ支払済みまで各年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告浩之に対し、金四九八五万二二二〇円並びに内金四三九九万二六六六円に対する平成六年六月一二日から、内金一七五万円に対する平成一一年二月一一日から及び内金四〇〇万円に対する平成九年六月二一日からそれぞれ支払済みまで各年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の運転する自動車に同乗していた訴外堂靖浩(以下「靖浩」という。)が死亡した交通事故について、靖浩の相続人である原告両名が、被告に対して、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害の賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 本件事故の発生
平成六年六月一二日午後七時三〇分ころ、名古屋市港区金城ふ頭二丁目七番名古屋港管理組合道において、被告が運転し、靖浩が助手席に同乗する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が、走行中ガードレールに衝突し、靖浩が死亡した。
2 被告の責任
被告は、本件事故当時、被告車の運転者として安全運転すべき注意義務があるのにこれを怠って本件事故を発生させた。
3 原告両名による相続
原告良子は靖浩の妻であり、原告浩之は靖浩の子である。
4 既払金(合計三六四三万一三九四円)
原告両名は、自動車損害賠償責任保険金二九九〇万七五一〇円、遺族共済年金一八八万八六〇〇円、遺族基礎年金四六三万五二八四円の支払いを受けた。
二 争点
1 損害額
(原告両名の主張)
(一) 靖浩の死亡による慰謝料 二八〇〇万円
靖浩は原告ら一家の支柱であり、その死亡による慰謝料は二八〇〇万円が相当である。
(二) 逸失利益 八九八九万二八四二円
靖浩は、平成元年三月二七日から防衛庁自衛官に採用され、採用時の階級は二等空士で、本件事故当時の階級は三等空曹であった。
また、靖浩(昭和四五年二月二日生)は、本件事故当時二四歳であるから、もし本件事故に遭遇しなければ六七歳までなお四三年稼働し、その間別紙1から5まで記載のとおりの収入を得ることが可能であったので、生活費控除割合を三割とし、新ホフマン方式により靖浩の逸失利益の現価を算出すると、給与(賞与その他の手当を含む。)分六五一二万四三三四円、退職手当分九八〇万三五一八円、退職後の収入分一四九六万四九九〇円の合計八九八九万二八四二円となる。
(三) 葬儀費用 三七一万九一〇八円
靖浩の葬儀は同人の実父である訴外堂秀年(以下「秀年」という。)が行い、同人は、戒名代・導師・脇導師その他の葬儀費用として三七五万三五四〇円を支払った。
その後原告両名と秀年との間で右葬儀費用の負担について訴訟となり、原告両名が秀年に対してそれぞれ金一七五万円及びこれに対する平成九年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払う旨の判決(大阪高等裁判所平成一〇年(ネ)第二二五二号、同第三二二一号貸金等請求控訴、同附帯控訴事件(原審大阪地方裁判所平成九年(ワ)第一〇七六九号))が確定したため、原告両名は、秀年に対して、平成一一年二月一〇日、合計三七一万九一〇八円を支払った。
2 過失相殺
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 靖浩の死亡による慰謝料 二五〇〇万円
証拠(甲一号証から六号証まで、七号証の一から二二まで、一五号証、乙一号証から五号証まで)及び弁論の全趣旨により認められる後記本件事故の態様、靖浩が原告ら家族の支柱であったことなど本件に関する一切の事情を考慮すると、靖浩の死亡による慰謝料は二五〇〇万円が相当である。
2 逸失利益 六二七二万四七四八円
(一) 証拠(甲五号証)によれば、原告(昭和四五年二月二日生、本件事故当時二四歳)は、本件事故の前年である平成五年に三九六万二九七三円の俸給等の収入を得ていた事実が認められるから、右収入を基礎に、六七歳までの四二年間就労可能(新ホフマン係数二二・六一一)とし、生活費控除割合三〇パーセントを用いて靖浩の逸失利益の本件事故当時の現価を算出すると、六二七二万四七四八円となる。
(二) 原告両名は、靖浩が定年(五五歳)まで自衛隊に勤務し、その間昇給昇格していくことを前提として靖浩の逸失利益の額を主張するが、公務員といえども社会の経済事情等に応じて定年までの雇傭や昇給等が当然に保証されるものではないから、(一)に認定した額を超える原告両名の主張する靖浩の逸失利益の額について、これを靖浩が得る蓋然性が高いとまで認めることはできない。
3 葬儀費用 一〇〇万円
なるほど証拠(甲一九号証から二八号証)によれば、原告両名が靖浩の葬儀関係費用として合計三七一万九一〇八円を支出した事実は認められるが、本件事故による損害として被告が賠償すべき金額としては、前記靖浩の年齢等を考慮すると、一〇〇万円が相当である。
4 以上によれば、原告両名の本件事故による損害の額は、合計八八七二万四七四八円である。
二 争点2について
1 証拠(甲一号証から四号証まで、乙一号証から五号証まで)によれば、前記争いのない事実に加えて、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
被告は平成五年九月一七日に普通自動車運転免許を取得し、本件事故までに約九か月間の運転経験を有するのみであった。
被告車は、被告の父親名義ではあるが、平成六年二月の購入後被告が管理し、被告が、自己の所属する自衛隊基地内で運転練習し、同年五月ころから公道を運転するなどしていたものである。靖浩は、本件事故当時空士長であった被告の上司(三曹)であり、本件事故当時も被告に対して運転指導をするなどしていた。
本件事故の現場は、西側が行き止まりになっており北東(国際展示場南交差点方向)に延びる名古屋港管理組合道金城東線(通称「メキシコ通り」)と、一般車両の通行が禁止された作業通路である南北に延びる名古屋港管理組合道金城西海岸線とが丁字型に交差する、信号機等による交通整理の行われていない見通しの良い交差点(以下「本件交差点」という。)であり、夜間の交通量は閑散としている。
メキシコ通りは、車道幅員約二四・六メートルの中央分離帯のある歩車道の区別のある片側三車線の道路であり、最高速度は時速五〇キロメートルに制限されている。メキシコ通りの本件交差点手前には一時停止の規制がなされており、オーバーハング式(夜間照明付き)及び路肩式の一時停止標識二本、一時停止標示が、明確に確認できるように設置されている。また、本件交差点の西側(メキシコ通りの正面側)には、行き止まりを示す反射式警戒板等二種類の警告板が、ガードレールの上部に、明確に確認できるように設置されている。
本件事故当時、本件事故現場付近は小雨が降っており、路面は濡れた状態であった。
本件事故の現場付近は被告が初めて運転する場所であったのに、被告は、靖浩を助手席に同乗させたまま、メキシコ通りを北東方向から本件交差点に向かって、被告車を時速一〇〇キロメートルを超える高速度で運転し、ブレーキをかけることなくガードレールに衝突し、警戒板の下に被告車の車体を約三分の二をもぐり込ませて停止した。
2 1に認定した事実によれば、靖浩については、被告の上司であって被告に対して運転指導する立場にありながら、被告が制限速度の二倍を超える高速度で運転した上本件交差点手前で一時停止することなく本件交差点に被告車を進入させるのを、漫然と放置していた過失があるということができる。
したがって、原告両名の損害の額を算定するにあたっては、公平の観点から靖浩の過失を斟酌するのが相当であり、その割合は一〇パーセントとするのが相当である。
原告両名の損害額は前記のとおり八八七二万四七四八円であり、右金額から右過失割合に従い一〇パーセントを減額すると、被告が賠償すべき原告両名の損害額は、七九八五万二二七三円となる。
三 右被告が賠償すべき原告両名の損害額から、前記既払金を控除すると、四三四二万〇八七九円となる。
原告両名は、本件訴訟追行のための弁護士費用として八〇〇万円を請求するが、以上によれば、本件事故による損害として被告が賠償すべき金額としては、二二〇万円が相当である。
よって、主文のとおり判決する(なお、遅延損害金の起算日については、本件事故の日からとするのが相当である。)。
(裁判官 榊原信次)
別紙1~5〔略〕